7時半、150円ぐらいで買った超低クオリティ目覚ましのけたたましい音で目がさめた。部屋をでると、2・3日前に来たばっかでまだ時差ボケのなおらない松宮さんが、もう起きて朝ごはんを食べてるところだった。私も夕べの雑炊をあっためて一緒にごはんを食べた。
「いい天気ですね」
といわれて気づいたら、たしかにおそろしくいい天気だった。風も強くない。幸先いいぞ、と思った。今日私はスカイダイビングをするのだ。
8時半ころになって歯をみがいていると、おもてに少年がむかえにきていたのでありったけの長袖をもってでた。車にはすでにスイス人のカップルがのっていた。むかえに来た少年と思ったのは、喋ってみたら私と同じ年ぐらいの女のひとだった。声が低くて髪が短いので男の子かと思ったのだった。
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車で30分ぐらい走って、途中で長髪のハーレー野郎っぽい男をのせ、車はケープタウンパラシュートクラブに到着した。ハーレー野郎もここのクラブの職員らしい。着くなりさっきの女のひとはハーレー野郎の長い髪をブラシで梳いて三つ編みをつくってあげていた。
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 セスナ
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ここの設備は、サッカーグランドぐらいの広い着地場と体育館のような飛行機庫、それから滑走路からなっていた。飛行機庫には小さいセスナが一台おさめられていた。飛行機庫のなかに通されると、やさしそうな35か40ぐらいの男のインストラクターのジェフが私たちを席にすわらせた。それからスカイダイビング手順や仕組みの説明が始まった。私たちがスカイダイビングするとき、どういう服装をしてどういう器具をつけ、それがどのように安心かってこと、それからどういうふうに飛行機にのり、どのぐらいで上空に到達し、何メートルぐらいの高度からどういう体勢で落ちるか、どのぐらいの時間落ち、どんぐらいパラシュートでおりて、着地のときはどうするかとか。
 インストラクターのジェフ
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彼によると飛行機は9000フィートまで上がり、それから30秒間で4000フィートまでおちてきて、パラシュートを開いたらあとの4〜5分で地面まで到達するんだそうだ。パラシュートは高度計とコンピューターが連動してるシステムになっていて、万一インストラクターがあたまぶつけて気を失ったり、心臓発作を起こしたりしても、高度が下がると自動的に開くから心配いらないんだという。説明がおわると実際にセスナの近くまで行ってどのように乗り込み、どうやっておりるかを説明してもらった。私はあまり興奮してのめりこんだのでインストラクターにすごく近づいて話をきいているのに気づきはずかしくなった。
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それからビデオの説明があった。スイス人カップルがビデオ撮影を申し込んでいたので、ビデオがどういうふうに撮られるかっていうことの説明と同時に、自分たちがどういうふうにとび降りるかを実際にビデオをみながら確認したのだった。ビデオに撮られているのは白髪のおばあちゃんで、これが彼女の78才の誕生日だったのだそうだ。彼女は不器用そうにだったけど無事にジャンプし、無事に着地していた。おわったあと娘さんかなんかと抱き合ってるシーンが映り、なんか涙が出てしまった。78になっても空を飛びたいっていう気持ちがあるなんて、すごいすごいことだよ。
日本にいたとき、私は常々自分の年齢の限界ってことを考えてしまうほうだった。たとえば20才ぐらいですでにインドなんかにひとり旅をしてる女の子をみたり、10代ぐらいで留学してるひとを見ると、もっと自分も若いうちにいろいろやっておけばよかったなあと思ったり、「自分はもうこのトシになってしまったから無理だ、自分の選択できる人生はもう幕を閉じてしまったんだ」と思ってしまったりしたものだった。だけど人生は、自分が生きていることを認識してる限り「もう終わった」ということはないんだ。いくつになっても、飛び込んでいく勇気があれば人生は自分のものだ。おばあちゃんのジャンプのビデオは、スカイダイビングと全然関係ないところで私に思わぬ感動を与えてくれた。
「さてじゃあ誰が最初に飛ぶかな」
って言われたとき、私はまだしばらく緊張を楽しみたくて、
「お先にどうぞ」
とか言ったんだけど、ちょうどこのビデオを見て目がすっかりうるうるしてるのを見とがめられて、
「じゃあ、君からだ」
って指名されてしまった。緊張してるひとっていうのはほっとくとどんどん不安がふくらんでしりごみしたり具合わるくなってしまったりするから、緊張してるひとから先に片付けるという方針のようだった。
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 サンタクロースも飛んでくる
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Mサイズのオレンジ色のつなぎが用意された。登山用の肌着を着て、Tシャツを着て、その上に長袖のシャツとトレーナーを着て、さらにつなぎを着るんで、お相撲さんの着ぐるみきたみたいにもこもこだ。その上からハーネスというバンドみたいなものをつける。私のハーネスにはタンデムで飛ぶひとのハーネスとがっちりつなげられ、800ポンド(360kg)の重さがかかっても切れないという。
つなぎを着るとジェフがハーネスを持ってきて、子供に着替えさせるみたいに、
「じゃあここに右足いれて、それから左足、こんどここに右腕とおしてね、いたいとこない?」
と確認しながらつけてくれた。ハーネスの装着がおわると彼が後ろに立ってシミュレーションがはじまった。「じゃあこれからシミュレーションはじめるよ」とか言わないで、さりげなく、
「今日の君の飛行ではあと2人のひとがシングル飛行をすることになったよ」
から始まって、
「飛行機は4シーターのセスナ182だよ。飛行機に乗るときはプロペラ側から近づかないようにね。降りるときは左足からタイヤのついてるバーの上に出して、手はハーネスにね。僕がワンツースリーでジャンプするからそしたらアシは後ろに跳ね上げて、合図したら腕をひらくんだよ」
とさりげなくシミュレーションにもっていくところがうまい。
セスナが3人の男のひとたちの手で滑走路まで押されていった。ジェフもつなぎを着て、
「じゃ行こうか」
と促した。
「どんな気分?」
って訊かれて、
「ちょっと緊張してる」
って言ったら、
「そう、ちょっと緊張してるぐらいがいいね、あんまり緊張しすぎると楽しめないけど、少しぐらいの緊張は楽しみを増すから!」
と元気づけられた。滑走路までの50mぐらいの舗装道路を歩いてるとき、なんか「アルマゲドン」のワンシーンのような気分になってエアロスミスが頭のなかで流れた。
セスナにつくと、もうプロペラがまわっていて結構風がつよい。セスナの乗りぐちには扉というものがついてなくて、あけっぱなしの横っぱらにまずちょんと座り、足をすべりこませるようにして乗り込む。操縦士以外は席なんてなくて、床がちょっとふかっとした素材になっていてそのうえに座るようになっている。私が後ろをむいて座ると私の背後に女の子が座り、
「今日はじめてなの?」
と聞かれた。
「そうなの」
っていうと、彼女は、
「楽しんでね!でも落ち着いてやれば平気よ!私も今日はじめてひとりで飛ぶのよ」
って言って励ましてくれた。それからジェフが乗り、さらにもうひとり、シングルジャンプをするふとったおじさんが乗ってきた。プロペラのまわりが激しくなり、セスナはうなりをあげながら滑走路を前進しはじめた。スピードがあがり、うしろむいてる私の目に滑走路のアスファルトがうつったと思うともう空中だった。
飛行機はヨレヨレと飛び上がり旋回しながら上昇をつづけた。1000フィートあがるごとにジェフが高度計を見せてくれる。
「4000mまで上がったらふとっちょの彼をおろし、1回旋回して、それから私の後ろにいる彼女がとびおり、さらに9000mまで上昇して僕たちがおりるんだよ」
と説明してくれる。はるかかなたにテーブルマウンテンが見え、眼下の道路がどんどん細くなっていく。飛行機は何度か旋回して3500mに至ったらしい。ふとっちょのおじさんが注意事項を確認し、装備を見なおし、手順を再確認しあと、窓から身を乗り出してジャンプの体勢にはいった。窓の外のバーにつかまり、体を外に出し、バーにぶらさがるような格好になった、と思うといきなり彼は視界から消えた。セスナの後方をふりかえると、彼は地平線上で広がったパラシュートにぶらさがって、多少不恰好ながらも安定した落下をはじめたようだった。
 ソロでジャンプした女の子
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1回旋回するとこんどは後ろの彼女がにっこりわらって窓のほうへ移動していった。また注意事項を確認して、装備を見なおしたあと彼女も窓から勇ましく身を乗り出した。バーに手を伸ばし、ぶらさがると、
「3、2、1、GO!」
という合図と共に手を離し、次に彼女が見えたときは、はるか彼方で地図の上の空色の花になっていた。
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ジェフは彼女のパラシュートを指差して私に見せたあと、
「さあ君の番だ。だけど落下高度まではまだしばらくあるから、それまでは君だけの遊覧飛行だよ」
といって私を窓の近くにひきよせ、後ろむいたまま彼の膝の間にすわらせた。
「あれがテーブルマウンテンだ。あのうしろに喜望峰があるんだよ。こっちの砂漠が、サンドボードのできるところだ。あっちの山のほうにあるのがPaarlの街だよ。あれがケープタウン、こっちの手前に見えてるのが原子力発電所。あっちの山のふもとにはぶどう畑があって、ワインの名産地になってる」
と、一帯の観光案内をしてくれた。黙っていると緊張してしまうから、気をそらせて不安をやわらげてくれているのだ。
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 サンドボード場になっている砂漠
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そういう説明をしてもらってる間に、私は胸元にいれといたカメラを出して何度となくシャッターを切った。足元には緑色の水を白い波のレースが飾った美しい海岸線がつづいていて、陸地にはまっすぐな道2本がまじわって細い×印をつくっているのが見える。遠い山は日本がのような藤色で地平を描き、空はどこまでも青く、空じゅう探しても雲ひとつもない。説明の合間にときどき高度計を見せてもらう。空気圧の変化で、ダイビングのときに習った耳の空気圧調整を何度もした。
 ふくらんだシート
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彼が、
「窓から手を出してごらん」
という。風にさらすと空気はおそろしく冷たくなっていた。彼が、
「いまマイナス4度だよ」
と付け加えた。でも興奮のせいで、凍えるほど寒いという気はしない。高度6000フィートを超える頃に、アシがもちあがるんで変だなと思って見たら、座ってる床っていうかシートのカバーがふくらんで私の足を押しあげていた。
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高度8000を過ぎた頃、
「じゃあ準備しようか」
って言ってジェフが膝立ちになった。私も機内で膝立ちになり、じりじり下がってつなぎの背中を彼の胸につけた。いよいよだ。だけど、不思議と緊張感とか恐怖感はなくて、肝が据わった状態になった。ゴーグルをかけたら、ヨーロッパ人用なんでハナの部分の切れ込みが深すぎ、目が完全にガードできそうもない。ジェフがゴーグルを下のほうまでひっぱって空気がはいらないようにしてくれた。ジェフはとても心強いパートナーで、このひとがいれば万一いまおっこちても絶対助けてくれそう、と思った。彼はハーネスの器具を私に見えるようにあげて、私を安心させるように、
「左上をとめるでしょ、右上とめたでしょ、右下とめました、左下OK」
と説明してくれる。それから最後のシミュレーションを始めた。これまで、最初の説明をいれると3回もシミュレーションしているから言われなくてもどうすればいいか自然に頭に思い描けるようになっていた。
「いいね、じゃあバーに足をかけて」
と言われ、窓にじりりと近づいた。左足を出すともう重心はうしろに預けた格好になっていた。頭を上げて、ハーネスをにぎり、後ろで、
「3、2、1、GO!」
という声を聞いたと思ったら私の体は宙に放り出されていた。
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 高度8000ftから見た海岸線
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頭からまっさかさまに空気のなかにつっこみ、濃いグリーンの航空写真が目にとびこんできたと思うと空と飛んでいったセスナの片鱗があっという間に目の前をかけぬけた。もう一度地平線が横切っていったと同時にバランスをとりもどす。うしろから軽く肩をたたかれた。腕をひらいてごらん、という合図だ。私はおそるおそるハーネスにかけた腕を開き、正面から受ける風にしたがった。私は地面にむかって水平に飛行していた。そう、飛行しているという感じだった。地上があまりに遠いので、落ちているという感覚がない。地面から吹きつける強い風にうかびながら、私は今度こそ空を飛んでいた。
とても長い長い間、私は空に浮かんでいた。高速道路をバイクで、最高速で、ヘルメットなしで走ってるみたい。いつからか覚えてないけど、自然にクチから「ぴゃ〜」という叫び声が漏れていたみたいだ。高度計が5000mを切ってまもなく、パラシュートがひらかれた。パラシュートがひらききるとグーイと空からつまみあげられるような感覚があって、落下はとまった。耳元で鳴っていた激しい風の音がやみ、落下が、まったくとまったような感じだった。
「カメラだしていいよ」
といわれて胸元からカメラを出し、地上と地平と海とテーブルマウンテンの写真を撮った。ジェフはパラシュートを一瞬すぼめてひゅうと落ちる感覚とか、それからパラシュートを傾けて、ぐるぐる旋回しながら急速に落下する感覚を楽しませてくれた。ストラップをもっててもらって、自分とジェフと、虹色のパラシュートの映ってる写真も撮った。だけどこれはおそろしくマヌケな顔で映ってたから、残念ながらここではホームページではお見せできない。
落下は止まったように思えていても地上はぐんぐん近づいていた。さっきまで反射する光のつぶでしかなかった車が、窓も屋根もあるちゃんとした車に見えてきた。さっきまで地上の×印でしかなかった道が、上り車線も下り車線もある立派な舗装道路に見えてきた。気圧のせいなのか、ハーネスのせいなのか、足を流れてる血が沸くような、足がしびれてるような感覚が走っていた。もう10回近くカメラをつなぎの胸元から出したり入れたりして、さんざん写真もとりまくってもう満足だ。後ろから、
「僕が着地するから、着地んときはももを上げててね」
という最後の確認を聞いた。パラシュートは飛行機庫の屋根の上をとおり、ぎりぎりまでまわりの林の上をとおり、着地場の砂の上に来たらもう地面はすぐそこだ。うしろでジェフが両手でストラップをひきパラシュートをぐんとしぼりこむと、パラシュートは落下をとめて一瞬ぐいと浮かぶようにスピードをおとし、その直後にジェフが着地した。つづいて私も着陸した。長い飛行が終わったのだ。
 着地記念写真
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パラシュートがやわらかに地上にひろがり、ジェフは私と自分をつないだ金具をはずすと、
「無事着陸おめでとう!」
といって抱きしめてくれた。彼にとっては毎日の仕事のはずなんだけど、生まれて初めての5分間の飛行経験の喜びを、私と一緒に喜んでくれる彼の心づかいがまたうれしくて私も彼の肩にとびついた。ほんとにすばらしい経験だった。
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飛行機庫にはいり、ハーネスをはずしつなぎを脱ぐと、それでも暑くてトレーナーと長袖シャツと、登山用の肌着を一気に脱いでTシャツになった。続いてスイス人の彼女のほうが飛んだ。飛行機は操縦士のほかには4人しか乗せられないんで、私たち3人は3回にわけて飛ぶことになっていたんだ。彼女はビデオを頼んだから、カメラマンがひとり余計にのり、そのほかにシングル飛行のひとがひとり乗り込んだようだった。
セスナが離陸したのは11時55分で、それから20分ぐらいかけて彼らは上昇していった。あまり高いから見えなかったけど、まずシングル飛行のひとがジャンプし、それからカメラマンが降り、つづいて彼女とタンデムのパートナーが降りたようだった。自分のときはあんなに長かったのに、ひとが降りてくるのを見てるとあっと言う間に感じられるというのは不思議なことだ。ちーさいちーさい点だった3人はついたり離れたりしながら降りてきた。
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事故はこのときに起こった。彼女と一緒に飛び降りるカメラマンの段取りは、途中まで彼女たちと同じ高さを保ってビデオを撮り、彼女たちのパラシュートが開くところまで撮ったら自分もパラシュートをひらく。だけど彼は先に着地して、彼女たちが着地するところも撮らなくちゃいけない。それであせったのか、それとも先発のパラシューターが遅かったのかわからないけど、カメラマンと先発のひとは、気づくとほとんど同時に降りてくるような感じだった。しかも二人はかなり接近して飛行機庫のまん前に降りようとしていて、5mと距離をおかないニアミスをして、地上から一瞬悲鳴があがった。
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 着地の瞬間
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私はカメラマンを目で追っていたんだけど、カメラマンとすれ違ったパラシュートはそのまま落下すれば林につっこんでしまうんじゃないか、と気づいた瞬間、ドン、とイヤな音がした。停めてあった車の車体に、もうひとりのパラシューターがつっこんだのだ。その音で建物内にいたひとたちが飛び出してきた。
「なにやってんだあいつ!」
と叫んで数人がすっ飛んで行く。彼は車の後ろにうずくまっているみたいだ。
「担架お願いしまーす!」
という声が聞こえてジェフが担架持って走っていったけど、どうも脳震盪を起こして意識がないらしく、病院へ運ばなければならないらしい。誰かが携帯で病院に電話した。街から遠い場所だから救急車では時間がかかりすぎる。幸い場所がまがりなりにも飛行場なのでヘリをよこしてもらうことになった。スイス人のジュリアが着地するとすぐ、パートナーの男のひとが血相かえてケガ人のところに飛んでいった。ケガをしたのは彼の親友だったのだ。
それからしばらくしてヘリコプターがやってきた。ヘリが砂地の付近に離着陸するときにほんとに映画みたくホコリを巻き上げてるのを見て、不謹慎にも「おおっカッコイイ」と思った。
 救急ヘリ
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ヘリから救急救命士みたいなひとが降りてきて、1時間ほどなにか応急手当をほどこしてからヘリは飛び立っていった。命に別状はないらしいけど、骨ぐらいは折れてるようだって話だ。パラシュートは安全だ。高度計も正常だったしジャンプも完璧だった。高度10mまではなんの問題もなかったけど、着地のタイミングと場所をほんのちょっと誤ったために大変なケガをしてしまった。事故は、やはり起こり得るものなんだ。
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それからスイス人の彼が飛び立って、降りてきて、3人して飛行機庫のなかでくつろいでいたら彼らのビデオの編集がはじまった。このビデオっていうのがすばらしくて、まず地上でのハーネスの装着から写していて、セスナに乗り込むところはセピア色でスローモーション。太陽の輝く空を写したあとセスナが飛び立つところを撮って、上昇中は省いて次はいよいよジャンプシーン。最初の宙返りはみんなやるらしくて、ジュリアがセスナの窓からぽろっとこぼれてくるところをコマ送りでまわし、それから逆まわしにして一旦窓のところまで戻して、もういちど落ちてくるような凝った演出になってる。
それから落下してる間にカメラのほうをむかせてピースさせたり水平にぐるぐる回らせたりして、パラシュートがひらいて上空にぴしゅんととびあがっていくところを撮る。(これは、カメラマンが落下をつづけてるからあたかも飛び上がってくように見える。)そこから地上まではカメラマンの見た風景がつづいて、カメラマンが着地したら、今度彼女の落下地点まで行ってフェードインで彼女の着地シーン、ジャンプ後の感想インタビュー。それでまたこころ憎いことに、離陸シーンとかジャンプシーンとかにいちいちシャレた音楽つかっていて、その選曲センスが実にいいんだ。
ビデオの規格って日本は世界のほかの国々とちがうから洋モノのビデオは日本じゃ見られないっていうんで私は頼まなかったんだけど、こんなにセンスいいビデオがつくってもらえるなら私もお願いすればよかったかなあと、ちょっと後悔した。でもすでにスカイダイビングだけでも予算オーバーだから、そんなことはできなかったとすぐに考え直した。
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ジュリアのビデオの編集のあと、ジュリアの彼のビデオの編集があったんだけど、彼は事故を目撃した直後のジャンプだったんで緊張していたのか、ジャンプする前から叫び出してるのがわかるぐらいでっかいクチあいてるのが見事に映っていて、そのあとも手の伸ばし方がぎこちなかったり、着地のときにばたついていたりと相当カッコ悪い映像だったので、私は撮らなくてよかったかもしれない、という考えをそれで補強した。
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 ビデオ編集中。下に「落ちて生きてりゃ痛いかもね」って書いてある
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帰りは、行きと同じ女のひとがまた運転してくれて、まずジュリアたちの泊まっているシーポイントに連れて行ってくれ、それから宿のほうまでつれてきてくれた。彼女は14年結婚してた旦那と去年離婚したばっかで、いま長髪のハーレー野郎とつきあってるけど、
「ヤツは女好きだからね、彼氏といえるかどうか」
と言っていた。息子は旦那と住むことになったんで、彼女は養育費を仕送りしなくてはならないそうだ。週末は息子と会える日なんだけど、なかなか休みが取れないことが多いんだそうだ。
「男親が子供をひきとるって珍しいことじゃないの?」
って聞いたら、
「そうなんだけど、息子があっちと住みたいっていってね。ママは退屈だってさ。あっちの家は衛星放送もあるしゲームもあるし、ほったらかしだからね」
って言った。
「子供にはなにが大事かわかんないもんね。子供に選ばせるなんて、そんなんでいいの」
って言うと、
「そうなのよ」
って難しい顔をした。
「なんで別れたの」
って聞くと、
「あたしの言うこと聞く耳もたないから。男なんてみんな聞く耳もたないよね」
って彼女は言った。
彼女は、
「いずれあたしも飛びたいな。いまは養育費でお金とられちゃって飛ぶお金ないけど」
っていったあと、
「あんた学校いってんの?それとも出たとこ?」
というんで、
「学校出たあと、6年働いてたよ。いま30」
っていったら
「ほんとに!日本人は若いよね。でも年取ったらすっごく年よりに見えるの。スペイン人と同じね。あたしはスペイン人の若い男の子がすき。すっごいきれいでさ。だから若いころスペイン行きたかったの」
と言った。多分また恋をして、別の人生を生きる予定なんだろう。
ホテルまで送ってもらって2Fにあがると、キッチンに松宮さんがまたいて、
「今日カレーつくろうと思うんですけどよければどうですか」
と言われたのでご一緒させてもらうことにした。日本のバーモントカレーだ。1時間ほど煮込んでカレーができて、久々に日本風のカレーに舌鼓を打った。私が人生で初めて5分間だけ飛んだ一日は、とても普通の顔で幕を閉じた。
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